「き、来てみなさいよ……! リ、リュアン様に手を出したら、ぼ、ぼこぼこにしてやるんだから……!」

 虚勢を張って自分を鼓舞し、セシリーは薄暗闇の奥をじっと見つめた。
 しっかりと迫る獣の息遣いと爪の擦過音が肌で感じた時、ぬっと暗闇から白く、大きな顔が突き出された。

「ウォン!」
「セシリー!」
「きゃぁぁぁぁっ、来ないで! 馬鹿! 変態! それ以上近づいたらこれでその鼻をバチンってしちゃうんだからね! その長い鼻づらを……あれ?」

 セシリーの手から、突き出した松明がぽろりと落ちて、床に転がった。
 白く巨大な狼はゆっくりとセシリーに近づくと、安心させるようにその手をぺろりと舐める。

「リ……ルル?」
「セシリーっ!!」

 次いで誰かが上から飛び降りるとこちらに一直線に駆け寄り、真正面から抱きしめた。セシリーはあたふた両手を振り回しながらも、見覚えのある赤毛をつい、指で引く。