それでもこぼれそうな涙の粒は隠し、最後まで言い切って頭を下げるとセシリーは身体を返し、その場から走り去る。

「セシリー! ちょっ……先輩、なんで止めるんですか!?」
「あなたは大人しくしていなさい」
 
 追おうとしたラケルの腕を強引につかんで止めた後、キースはリュアンの前に立ち、顔を見下ろした。

「団長……いえ、リュアン。あれでいいのですか? セシリーさんはいい子だ。気丈にも自分の苦しみを隠し、あなたを傷つけまいと自分から去った。あれもまた、人を思いやる強さでしょう……。そんな優しい人を、自分の痛みと向き合いたくないがために拒絶し悲しませるのが、騎士たる者のすることなのですか?」

 リュアンは何も言わず、肩をびくっと震わせる。

「あなたが何を考え苦しんでいるかは、なんとなく予想できますよ。失ったあの女性とセシリーさんをどこか重ねて見てしまい、忘れていた自分の心の傷と、弱さを思い出したんでしょう……?」
「言うな……ッ!」