「――止めてくれっ!」

 真横に振り払われた手が、指先を弾き飛ばす。静かな広間に軽い音が鳴った後、目の前のリュアンが上げた顔は……苦痛に歪んでいた。

「嫌なんだ……」

 胸を押さえ、か細くだがはっきりと拒絶するリュアン。
 そんな彼の行動に表情を固めた後……やがてセシリーの口から漏れたのは、冗談みたいに明るい声だった。

「そ……うですよね! 私なんかとじゃ、踊れませんよね。綺麗じゃないし、可愛げも無くて、取柄とか……なんにもないんですもん! 笑っちゃいますね……あはは、はは」

 笑顔になったセシリーは、恥ずかしそうに赤くした顔をゆっくりと下げていく。声は徐々にかすれ、視線が前髪で隠れる。緩い弧を描いた唇は、微かに震えていた。

「っ……すみません。何か今日はちょっと疲れちゃってて! 他のお仕事も終わってるから、帰り、ます!」