「もう後一月程の時間しかありませんから、セシリーさんの承諾がいただけたのなら、一緒に練習を初めて貰いませんとね。ラケルには演奏を頼もうと思ったのですよ」
「へへ……一般的な舞踏曲くらいなら演奏出来ますから、お役に立てるかと」

 ラケルが取り出したのは黒塗りのフルートで、彼は指を走らせ軽快に音を鳴らし、調子を確かめて笑う。

 それに頷くと、キースは動きの鈍いリュアンの肩をセシリーの方に押し出し、ラケルに一番動きの緩やかな曲を奏でさせた。

「そこまで完璧なものは期待していません。とりあえず楽曲と周りに合わせ、場の雰囲気を乱さない程度にステップを踏めていればよいですから」
「あ、私この曲なら知ってます……!」

 セシリーも一応淑女の嗜みとして、いくつかの円舞曲(ワルツ)に合った動きくらいは覚えている。中でも馴染みの多い一曲を聞かされ、頭の中で動きを反芻しながらリュアンをちらりと見る。

 しかし、彼は向かい合うまではしたものの、セシリーの方と目を合わそうとはしない。