青年は紫の目を細めて老婆に微笑むと、強盗を抱えたままさっとその場から身を翻した。颯爽とした姿に町娘たちから黄色い声が降り注ぐ。

(す、すごいや……!! 格好いいっ!)

 ラケルは感動のあまり、残っていた配達も忘れるほどの勢いでジョンの屋敷に戻ると、青年のことを尋ねてみた。

「お師匠様、僕すごい人を見たんです! 街中で魔道具を使って悪さをしている奴を、あっという間に捕まえて……。黒い制服で、左胸にこの国の紋章を付けてて――」
「ほう、それは珍しいものをみたな。きっと魔法騎士とかいうやつだろう」

 激しく興奮するラケルに、古文書から顔を上げたジョンは詳しく説明する。この国の騎士団は、近年になりふたつに別れたらしい。元々の主流派であった正騎士団と、その一部署から独立した魔法騎士団。彼らは近年増加傾向にある魔物の被害に対抗するための組織で、人数は少ないが、全てが魔法と武芸を両立させた戦闘の達人だということだ。