「ご存じなんですか?」
「ええ……! わたくしもたまにあそこに伺いますの。品揃えがよくてお値段も均一で、すごく安心感が御座いますわ」
「ありがとうございます、恐縮です」

 なんとお得意様だったようで、セシリーが頭を下げると、彼女は穏やかに微笑み自己紹介をしてくれた。

「わたくし、メイアナ・ライナスと申します。十数年前までそちらのキース様のお世話をさせていただいておりました。セシリーさん、よろしくお願いいたしますね」
「彼女はエイダン家で父の頃から世話係として仕えてくれていたのですよ。私が手を離れたのを機に引退しまして。今では悠々自適な生活のかたわら、こうして喫茶店を経営しているというわけなのです」
「へえ、素敵!」

 本心からそう思う。メイアナの背筋はしっかりと伸び、その佇まいからはしっかりとした芯が感じられる。彼女のような女性を見る度、セシリーも叶うことなら将来自分の意志で自立した生活を送りたいと考えてしまう。