長い指が耳をかすめたことに驚いたエステルが硬直する。

(どっか行け人間! みたいな対応する割に、平気な顔で触ってくるんだもん)

 気恥ずかしさを覚えながら、エステルは自身の髪を軽く整えた。

「楽しいって思える理由にはゼファーだって含まれてるよ」

「……くだらん世辞など。私に要求することでもあるのか」

「なんでそう穿った見方をするの。頼らないって言ったでしょ?」

 エステルはゼファーの膝の上で唇を尖らせ、腕を組んだ。

「この際言っちゃうけど、もうあなたのことは怖くないんだからね」

 ゼファーにはもちろん、誰にも言えない真実をエステルは抱えている。