「うん、楽しいよ」

 これは強がりでもなんでもなく、事実だった。

(ゼファーの封印を解くまで、いつプロローグの展開が訪れるんだろうって気が気じゃなかった。自分が死ぬ瞬間とか、村が滅びることばっかり考えて……きっと怖かったんだと思う。だけど今は違う。なんていうか、あのときよりは好きなようにのびのび生きてる。今だって一年でなんとかしなきゃいけないのは変わらないんだけど……)

 そよいだ風がエステルの髪を乱し、前髪が目にかかる。

「人間は理解しがたい生き物だな」

 つぶやくように言ったゼファーが、乱れたエステルの髪をそっと彼女の耳にかけた。

(こ、こういうところ、びっくりする)