エステルの知る現実世界に比べ、この世界は前時代的で不便だ。

 しかしエステルはその不便な生活をこそ愛おしく思っていた。

「頼るのは魔法を使わないようなことだけにしたいよ。そのほうが生きてるって感じがするんだ。私の個人的な気持ちの問題なんだけどね」

 言いたいことを伝えてから、改めてエステルはゼファーに軽く頭を下げる。

「断っちゃってごめんね。でも、助けようとしてくれてありがとう」

 ゼファーはエステルを見つめたまま鼻を鳴らした。

「土にまみれる生活がそんなにも楽しいか」

 蔑んでいるようでいて、純粋な疑問を感じるひと言だった。

 今度もまた、エステルは悩まずに答えを出す。