「ははは。嘘じゃないよ。俺は負けん気だけは強かったから、とにかく強くなろうとした。馬鹿にしたやつを軽く超えたとしても、まだまだ自分は上に上がれるんじゃないかと思えば、いくらでも頑張れた」

「そうなんですね。けど、勇者様になるくらいに上り詰めてて、本当にすごいです。尊敬します。私には、そんなことはとても出来ないから……」

 私はすぐ近くに居る親友の美点を羨むばかりで、自分は血の滲むような努力を重ねたかと言われるとそうではない。

 いつも、自分には何もない仕方ないと嘆くばかりで……本当に嫌。

「……フィオナは、出来ないことがあっても良い。俺が出来るのなら、それは俺がすれば良い。夫婦って、そういうことだろ?」

「……ええ」

 私はシリルがどういう気持ちでそれを言ったのか、わからなかった。何も出来ない私でも、彼が何でも出来るから良いという意味だろうか。

 近い将来に別れてしまう妻に対していう言葉では、ない気がした。

 私はシリルが、思った通りの反応を返せなかったのかもしれない。彼は不思議そうな表情をした後で、にっこり微笑んだ。