多くの命が掛かっているというのに、ベアトリスにとってはその朝に起きた時の寝癖の方が一大事なのだ。

 世界救済の旅を、物見遊山の旅と勘違いしている。

 俺は真っ先に匙を投げた。言葉が通じないのだ。いいや、意味は通っても、理解しようとしないのだから、理解するはずもない。

 断言しても良い。どんなに包容力のある男でも、あれは無理だ。

 実際に妹の居るシリルは、根気よくベアトリスに説明していたようだ。

 肉親には駄目な子ほど可愛く見えるらしいが、血の繋がっていない俺には全く可愛く思えなかった。

 ベアトリスが気候の良い街に留まりたいと言い出しても、俺たちだっていつまでも同じ場所に留まっている訳にもいかない。

 宥めてすかして、どうにかして動いてもらうしかなかった。

 いや……俺たち三人だって全く望んでない事態ではあったが、一年半もの間、朝も昼も夜も助け合って生きてきたのだ。

 そういう関係性で、親しくなるな仲良くなるなわかり合うなって言う方が、それは無理な話だろう。

 そんなこんなでシリルが結婚して、俺はというとあんな募集に応募して来たフィオナのことが気になって堪らなかった。