もしもを欲しがるのは、現状に満足出来ていない人だけだと思う。間違えても軌道修正して、今が幸せならば、それで良いと思えるもの。

「ふふ……どうかしら? 中途半端に男性に声を掛けられても人気者の幼馴染みに嫉妬して、もっともーっと! 嫌な女になっていたかも」

 肩をすくめて彼女の前で見せるいつもの私のようにそう言えば、涙を浮かべていたジャスティナはくすくすと笑い出した。

「それを言うなら、親友の危機を知らせなかった私は、稀代の悪女になってしまうわ。けど……フィオナ。あんなに素敵な旦那様は、きっと世界に一人しか居ないわね?」

 そう言って彼女は目配せをしたので、私の背後に居て待っていてくれている人を示したのだとわかった。

 こうしている私たち二人を見ている彼が、どんな表情をしているのかも。

「それはそうよ。だって、シリルはこの前に世界を救ってくれた……たった一人しか居ない、勇者様だもの」


◇◆◇


「……フィオナは、良い友人に恵まれたね」

 後から馬車に入って来たシリルは車窓からジャスティナと手を振っていた私に、にこにこしてそう言った。