私の肩を抱きながら階段を登り始めたシリルは、そんなことを思っているなんて信じられないくらいに飄々とした態度だった。

「すぐは無理。半日は要る……ベアトリスの奴、容赦なく限界まで魔力を吸い取りやがって。魔塔を出て王の命令を聞かなくて良いなら、あいつとは絶対に会わない。もう二度と……絶対にだ」

 寄り添っている私たちの前を狭い階段を進んでいるルーンさんは、苦々しい表情で吐き捨てた。

 この前にも彼は、ベアトリス様には王の命令だから仕方なく会うと言っていた。

 聖女ベアトリス様のわがまま振りを目の当たりにした私も、彼の意見に賛同したい。出来るならば、一生会いたくない。

 あの人と会えば絶対に、嫌なことしか起こらない。

「俺も賛成。だが、今回は明らかにやり過ぎだから、父親のヴィオレ伯爵も庇(かば)いきれないんじゃないかな。自分の欲のため人の命を盾に何の罪もないフィオナを脅すなんて、あまりにもひど過ぎる」

 眉を寄せたシリルはさっき地下室であったことの怒りを、収まりきらない様子で話していた。