「式までに奥様の体のラインが変わると、困ります。痩せすぎても太りすぎてもいけません……もちろん。ご懐妊(かいにん)となると、おめでたいことですが、愛する奥様の希望通りとはいかなくなります。それだけは、先にご忠告しておきます」

「……胸に刻みます」


◇◆◇


「しかし……十月間か。フィオナ。ドレスが出来たら、すぐに結婚式をしよう」

 帰り道の馬車の中で、シリルは私に言った。

「え? けど、社交期だと、皆さまに迷惑になるかもしれないし……一月か二月待った方が、良いのではないかしら?」

 この国の貴族の常識でいくと社交期のハイシーズンに結婚式をすることは、あまりない。

 もしかしたら、庶民出身のシリルはそれを知らないのかしらと思った私は、彼に教えるつもりでそう言った。

「良いんだ。時期に文句を言うやつは、来なくて良い……俺はそうしたいんだけど、駄目なの? フィオナ」

 こちらを見る目は切なげで、うるうるとしている。いつも凛々しく颯爽としているシリルがそんな表情をするなんて思わなくて、私はびっくりした。

「っ……いいえ。シリル。シリルがそうしたいなら、私は大丈夫よ」