「ルーナ? さん?」
名前も知らないお客様だった。
「痛い、離せ!」
子息はお客様と一緒にいる男の人に手を捻られていた。
「エミリオ様、コレどうします?」
「あぁ、ルーナさんどうしたい? 衛兵に引き渡す?」
そんな事をしたら面倒でまた噂が噂を呼ぶ。
「離してあげてください。そのかわりもう二度と私に近寄らないで!」
「だそうだ、返事は?」
エミリオと呼ばれた大きな男の人が言った。
「分かった、分かったから離せ!」
苦しそうな声を出す前侯爵の弟の息子。エミリオと一緒にいた男の人から手を離された。軽く捻ってそうなのに凄く痛そうだ。
この! 覚えていろよ。と言う悪役の言う台詞を言ってヨロヨロと逃げて行った。あの侯爵家は気持ちの悪い人たちばかりなのね。
「さて、ルーナ嬢? 何があったか教えてくれますか?」
「えっと……エミリオ様? でよろしいですか? この度は助けていただきありがとうございました。ここではなんですし会場に戻ってもよろしいですか? あまりに遅いと兄が心配しているかもしれません」
……結構時間が経っているような。それに靴も脱げたままだし。バクバクと心臓が煩い。早くお兄様の顔が見たい。
「失礼、ご令嬢靴はどうされましたか?」
エミリオと一緒にいた男の人に気がつかれてしまった。
「……ここに連れ込まれた時に脱げてしまいました。落ちていると良いのですが……」
あたりを見渡すが暗くてよく見えない。
「分かりました。こちらから来られたようですね? 私が探して参りますのでエミリオ様はご令嬢を……裸足だと足が冷えてしまいますし怪我をされては困ります」
靴を履いていないので気を遣ってくれたようだ。
「え、そんな。大丈夫ですから、」