「それでは冷血になってくださいな。契約内容は遂行しましょう。そう言う約束ですから。お話は以上ですか?」


 冷血になれって……ルーナに対して? 無理無理。


「……ルーナ」

 声も掠れてきた。疲労困憊。



「アグネス様がお待ちですよ? まだこちらに来て間もないですし、侯爵様がお側に付いていると心強いですわよ」

 

 なんて優しいんだ! 自分の事よりアグネスを優先するようにだなんて……ルーナも昨日来たばかりで心細いだろうに。

 まだ一年あると言う契約内容だがルーナに好かれる様に努力すれば契約内容は変えられるのではないか?


 こんなに美しく優しい淑女に成長していたなんて私はバカな事をした……ルーナが欲しい。


 執務室に戻りなんとか問題を解決出来る糸口がないものかと顧問弁護士を呼んだ。


「急に呼び立てて悪かった。この書類に目を通して欲しい」

 弁護士は書類を読み始めた。何度も何度も読んでいる。


「侯爵様のサインがしてありますね」

 はぁっ……と弁護士はメガネをとり眉間をぐりぐりとしていた。眼精疲労か?


「したよ。その時はそれが最善だと思ってサインをした。しかしそれを守りたくないんだ。だから何とかならないかと言う相談をしたい」


「……無理ですね。それに大問題が……」

 書類を机に置き、私の顔を見る弁護士。



「この様な書類を作成する時は、ぜひサインをする前に声をかけてもらいたかったですね」

 呆れた口調というのがよく分かる。最近私の周りの者は皆そういう感じだ。


「何か問題でもあるのか?」