「ここはそのルーナの部屋だ……それは変えられない。頼むからやめてくれ!」

 私の必死さが伝わった様だ。使用人は渋々別の部屋に家具を持って行った。まさかこんな事になろうとは……


「旦那様!」


 次はなんだよ……



 呼ばれた先にアグネスとメイド達の言い争う声が聞こえる。


「良いから連れて行きなさい! 私の言う事が聞けないの?! メイドのくせにっ」

 アグネスがメイドに突っかかっていた。なんだよ、一体……


「……どうした?」

 メイドに聞くと睨まれてしまった。私は当主だぞ……生意気な態度は取らないほうが身のためだ! と言いたいが今日は大目に見ておこう。



「お客様が夫婦の寝室に連れて行けとおっしゃるものですから」


「なによ! 見たいだけじゃない! どうせ使わないんでしょう? その代わり私が使ってあげても良いけど?」


 そんな事を使用人の前で言うなんてどうかしている……あ、メイドと目が合った。視線が……いや! 目が見えない。今は目が見えない事にしておこう。


「今日は疲れた。いつもの眼精疲労による頭痛だろう。私は少し休む事にする。アグネス、晩餐は一緒に摂ろう……」


 そう言って部屋を後にした。ルーナのご機嫌を伺いに行こう。ルーナの顔が見たい。


******


「すまないルーナ! なんとかして本邸に戻れる様にするから、」
「何を言ってますの? 侯爵様からアグネス様を邸に招くと聞いていましたので謝る必要はございませんわよ。わたくしの事はお気になさらずに」

「そんな事が出来るほど私は冷血ではない!」