「早くルーの顔を見たくて会談を早めに切り上げて急いで馬車に乗ろうとした時に黒髪の女性がヒールをマンホールに引っ掛けてよろけたところにたまたまぶつかったのです。恐らくその時についたものです。信じてください」
黒髪の女性? この国で黒髪は珍しいはず。涙が引っ込んでいった。それにあの香りにはなんとなく覚えがある。
「その女性、他に特徴はありませんでしたか?」
「……特徴ですか? そうですね。年齢は二十代後半くらいだと見受けられました。確か……目元にほくろがあったような?」
……もしかして!
「明日はお休みでしたわよね?」
「はい。休みです、午前中はゆっくり過ごして昼から結婚式の準備をする約束でしたよね」
「予定を変更いたしましょう。グレムの街へ行きます」
「ルー?」
「卿は誤解を解きたいのでしょう?」
冷静になると思わず卿と言ってしまうルーナに寂しそうな顔をするエミリオ。
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「ここで、会談をしていました」
取引先の高級ホテルのレストランの個室で会談をしていたようだ。恐らくここにいると……
「そうですか。それではしばらくここで待っていましょう」
「ルー?」
「よろしいですね?」
大人しくルーナと誰かを待っていた。それから三十分ほど経った頃。
「黒髪の女性です! 恐らくあの女性です」
エミリオがそれらしき女性を見つけた。
「…………はぁ。なるほど」
ポツリと呟くルーナ。すると黒髪の女性がこちらに向かって歩いてきた。
「え? お知り合いですか?」
「ルーナさん♪」
「……アグネス様」
「お久しぶりです。お元気そうですね」
「貴女も、相変わらずですね」
チラッとエミリオを見てにこりと笑うアグネス。