それにしてもたくさんの人が来ている。貴族も平民も溢れかえっているわね。
初めて汽車に乗る感じってどうなんだろう? エミリオに中を見させて貰ったけれど、動いている汽車とは違うものねぇ。車窓から見る景色は美しいのだろう。
「おいルーナぼうっとしているとはぐれてしまうぞ」
お兄様に言われてはっとした。
「それにしても凄い人ね」
ここではぐれてしまっては、家に帰れなくなるかもしれない! お兄様の腕に手をかけた。組むのもなんだか恥ずかしいし。
「しっかり組んどけ、はぐれたいのか?」
「……それじゃ遠慮なく」
うーん。照れ臭い。
「アルがルーナに優しいなんて見ていてむず痒いよ」
フェルナンドがそんなこと言って笑っていた。たしかにお兄様は家にあまりいなかったし、家に居てもたまに食事をするくらいで、のんびりお茶をしたという事もないわね。結婚式も来なかったくらいだし。
「最近お兄様は優しいの。とても頼りになるし見直しちゃったわ」
「へぇ。留学する時はアルが同行するんだって?」
一人で大丈夫かなぁ。とはじめての外国に不安を募らせていたらお兄様が連れて行ってくれる事になった。お兄様はたびたび隣国へも行っていたし、その時はパドルさんの家で厄介になっていたのだそう。
「あぁ、ルーナ一人じゃ危険だろ……護衛は連れて行くが初めが肝心だしな。汽車は隣国で乗ったことがあるが、国同士が繋がるんだから俺も乗りたい。それにルーナと旅をするって約束だったからな」
「意外と早く実現したわね」
「僕も行こうかなぁ、楽しそうだし」
フェルナンドが冗談めかしていうとお兄様はすかさず
「婚約者殿を困らせるような事はするなよ。噂にでもなったら可哀想だぞ。ただでさえルーナは噂が絶えないんだからな」