「いや、当然のことをしたまでです。礼には及ばない。座ってください」

「はい」

「ルーナ嬢はもう、あの店で売り子としては働かないの? 先程伯爵から聞いたけれどあの店は君が経営しているんだろ?」

 あの店でフォンターナ卿と出会ったのよね。公爵家の方なのに庶民街のお店の方で。


「はい。あの時はオープンしたばかりで様子が知りたかったのと、もっと店が良くなるにはどうしたら良いかとスタッフから意見が聞きたかったのです。現場を見てみないと分かりませんもの」


 若い子達の意見は絶対参考になる。私は貴族だから、平民と生活は違う。だからこそ平民の間の流行りとかを取り入れて、受け入れてもらえる店にしたいと思った。

 安価なものと言ってもそれは貴族からしたら安価だけど、あの店は特別な日に食べてもらえるようなちょっと良いもの。と言う感じのお菓子でもある。


「経営者として素晴らしい考えだね。ルーナ嬢はしっかり意見を持っていて、周りの意見に耳を傾けることが出来る。身分差を気にせずに意見を取り入れるその考えはルーナ嬢の強みになるよ」



 ちゃんと認められた気がした。私がやっていた事は間違ってなかったと思えて心が熱くなった。

 つぅーっと頬を伝う温かいものを感じた。


 悲しくて、辛くて、情けなくて、今まで経験してきたそれとは違う涙だった。


「え! ルーナ嬢?」


 ガタンと席を立つフォンターナ卿を見て思いっきり微笑んだ……