「ルーナ、先程の件で分かったように男の力には抗えないんだ。もし、フォンターナ卿が助けに来てくれなかったらお前のような小娘はあっという間に、侯爵家に戻されていたぞ。あの家に戻りたいのか? 襲ってきた男は初めからお前の事を狙っていたんだ。油断するからこんなことが起きるのだ。誰にでも良い顔をするんじゃない」


 ここは馬車の中。両親に先に帰ると伝えてお兄様と帰ることにした。

 そうよね。あの人に何かされていたら……ゾッとした。あの場でされる事を考えた。顔が近づいてきてたから唇を奪われたり。


 急に体が震え出した。今思うと本当に危機一髪だったのね。


 涙が溢れてきた。


 そう思うとジョゼフは私のことをそういう目で見ていたと言いながらも無理やり、その……襲ってきたりはしなかった。最低な人間だったけど契約無効だと言って体の関係になってもおかしくはなかったのかもしれない。

 そんな目で見られている事も知らなかったから、冷たい態度をとっていれば相手にされないと思っていた。契約書の存在は私の中で大きかった。

 

 ジョゼフの親戚だからと言ってそうとは限らないのに、お兄様の言う通り私は油断したんだ。


「ようやく理解したようだな? 王宮だからこんなことがあり得るわけないなどと考えていたんだろう? 王宮であっても休憩室やテラスなど人目のつかないところは沢山あるんだ。婚約者のいないおまえが一人で彷徨くという事はそこに隙がうまれるということだ。王宮のパーティーにはたくさんの貴族達が呼ばれる。マナーがなっているもの、なっていないものまで……もっと早くに気づいてやれなくて悪かった。これから化粧室といえど一人で行動するのは控えてくれ」