私の心臓にドクりとどす黒いものが流れる。

振り返ると、沙苗ちゃんはこちらを見つめてほくそ笑んだ。


「倉木リーダーは秋月先輩より私を選んだんですよ。」


そう言って、フフっと微笑む沙苗ちゃんとは逆に隣の浜名さんはオドオドと戸惑っているようだった。



「そう···。それで勝ったつもり?」


「えっ?」


「人の男を寝取って、あなたは勝ったとでも思ってるのかって聞いてるの。」


「そ、そうよ。」


「可哀想な子ね···。
人の男を寝取ることで自尊心を高めてるなんて哀れだわ。」

私はわざと沙苗ちゃんに向けて哀れみの表情を浮かべた。

「そんなのっ、捨てられた女の負け惜しみじゃない!」

勝ち誇ったような沙苗ちゃんの笑みには、動揺の色が隠しきれていない。

「····フッ··勘違いしないでくれる?
捨てられたんじゃなくて、私が捨ててやったの。安い女と浮気するような男はこっちから願い下げよ。
結婚前に教えてくれて感謝してるわ」

私は朝比奈くんを真似て余裕の笑みを向けると、沙苗ちゃんは思った返しと違ったのか悔しそうに唇を噛んだ。

私はそれを横目にトイレを後にした。