「マチルダ、カトレアになにを言ったんだ!」


 ヴァージル殿下が睨んでくる。
 ホントばかみたい。おかしくって笑えてくる。


「大したことはなにも。わたしはただ、殿下と仲良くなさってくださいと申し上げたかっただけです」

「なにっ?」


 殿下が律儀に驚いている。さっさと話を切り上げたくて、わたしは頭をフル回転させた。


「裏庭だろうが、お城だろうが、お好きな場所でお会いになったら良いと思います。わたしは一向に構いませんよ。それで殿下の心が安らぐなら、それが一番でしょう」

「マチルダ……」


 カトレアをちらりと見遣りつつ、殿下は瞳を輝かせる。ヒロインと違い、ヒーローは存外素直らしい。


「何事も、殿下のしたいようになさればいいと思います」


 泣きじゃくるカトレアを押し付け、わたしはようやく開放された。