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 その後、ヒロインのカトレアとヴァージル殿下は順調に交流を続けているようだった。


(たしか裏庭にある秘密の場所で逢瀬を重ねながら、王太子としての重責を打ち明ける、とかって感じだったっけ)


 誰からも同情、共感してもらえないヴァージル殿下にとって、ヒロインの存在は癒やしらしい。愚痴に対して「わかります」って返事をしたら、ヴァージル殿下にめちゃくちゃ嬉しそうに微笑まれて、ヒロインがときめくっていうありきたりな展開が書かれていた覚えがある。


 まあ、本人に交流状況を聞いたわけじゃないし、確認しに行ったわけじゃないから、実際のところはよく分かんないんだけど。


(たしか、原作ではマチルダが二人の逢引現場に乗り込んで邪魔をするし、ふたりきりで会うのを禁止するし、国王陛下や王妃様に言いつけて結構おおごとにしてたんだよね)


 当たり前の行動っちゃ行動だと思う――――けど、相手(ヴァージル殿下)を思っていないわたしには絶対にできない。妃の位に対してだって、なんの思い入れもないし。わざわざ足を運ぶのも、怒るのも疲れるし。


「どうして殿下をお止めにならないんですか、マチルダ様!」


 とそのとき、背後から唐突に声をかけられた。
 愛らしくて甲高い女性の声。振り返ったら、そこにはヒロイン――――カトレアの姿があった。