「別に。怒る要素が見当たりませんけど」


 殿下に対して思うところはなにもない。

 二年ぐらい前に親から婚約するように言われて、数回顔を合わせただけ。
 顔は綺麗に整っているけど、わたしの好みじゃないし。
 どうせ婚約破棄は確定事項だろうから、これからはさらに距離を置くのが正解だろう。


(お妃教育が始まるのは一年後って話だしね)


 ゲームと展開が変わっちゃうけど、できたらこの一年の間に婚約を破棄されてしまいたい。面倒なことは嫌いだし、無駄金だもん。国にとって良いことはなにもないしね。


「わたしのことはどうぞお構いなく。殿下は殿下の心のままに。好きなようになさればいいと思います」


 恋愛も結婚も面倒だ。心を動かすだけ時間の無駄だし、そんな価値はないと思う。

 おそらくだけど、殿下に婚約を破棄されたら、わたしと婚約したいっていう人は現れないだろう。わたし自身はそれで構わない。
 どうしても結婚させたいなら、親が頑張ってくれるだろう。前世みたいに自由恋愛ってわけじゃなく、政略結婚がほとんどだから、その点についてはこっちのほうが楽だ。


(乙女ゲームを参考に性格を改めろ、恋愛しろなんてことも言われないだろうし)


 小さく笑うわたしをよそに、殿下は先ほどよりも大きく首を傾げた。