(でもさ、それってひっどい話よね)


 ヒロインがやってることって略奪じゃん。ただの横恋慕じゃん。
 それなのに悪いのは苦言を呈し、二人を邪魔した悪役令嬢のマチルダのほう。
 王太子については罪悪感すら覚えていない印象だったし、最悪。


 まあつまり、このゲームは前世のわたしにとって、全く参考にならないどころか大嫌いなクソゲーだった。


「マチルダ」


 と、そのとき、ヴァージル殿下がわたしの名前を呼んだ。
 ようやくわたしの存在を思い出したらしい。わたしも忘れていた――――っていうか、こんな男、どうでもいいから別に構わないんだけど。


「なんでしょう? わたしになにか? ……あっ、もしかしてお邪魔でした?」


 ゲーム内でマチルダ(=わたし)がふたりになにを言ったかは覚えていない。多分だけど、早速苦言を呈してたんじゃなかったかな。
 まあ、それが当たり前の感覚だと思う。自分の婚約者がどこの誰とも知らない女と目の前でイチャイチャしてるんだからさ。


「え? あ……いや、長引きそうだから先に教室に行ってもらったほうが良いかな、と」

「承知しました。そのほうがありがたいですわ。それでは御機嫌よう」


 ぼーっと突っ立っていたせいで足が痛いし。他ならぬ殿下が勧めてくれたんだもん。遠慮なく帰らせてもらうことにする。

 なぜだかわたしの返答に困惑しているヴァージル殿下を置いて、わたしはひとり、校舎へと向かった。