「マチルダは試験のために、相当努力をしたのだろう?」

「努力というか、勉強は嫌いじゃありません」

「嫌いじゃない……良いことだ。学ぶことを楽しめる人間が一番強い。王族に必要なのは飽くなき向上心だと父上も言っていた」

「え? まあ、そうかもしれませんねぇ……?」


 こんなふうに手放しで褒められると、なんだか居心地が悪い。正直、わたしが殿下と結婚することはないのだから、王族云々言われたところで困るのだけど。


「殿下は殿下で、最近はかなり剣術を頑張っていらっしゃるじゃありませんか。わたしは勉強だけですし、素直に御自分を誇っていいと思いますけど」

「見ていてくれたのか?」


 ヴァージル殿下は満面の笑みを浮かべつつ、ズイと顔を近づけてくる。


「え? いや、見ていたというか……あんなに毎日校内を走り回っていたら、嫌でも目に入るかと」

「見ていてくれたんだな!」


 その瞬間、体の奥で、トクンと何かが小さく鳴る。
 身体がふわふわして、ソワソワして、なんだかとても落ち着かない。