「貴女は殿下の心を救いたい――――支えたいんじゃなかったの?」


 正直言って恋愛のことはよく分からない。
 だけど、相手を思えばこそ、相手の力になりたいと思うものなんじゃなかろうか?


「そうじゃありません。だって、このままでは殿下はわたくしを必要としなくなるし、そうするとわたくしを見てくださらなくなるじゃありませんか」

「……はい?」


 なんだそりゃ。つまり、殿下の話を聞いていたのは、殿下のためじゃなくて自分自身のためってこと?


「そんな気持ちで他人の話を聞いてたら疲れません?」


 わたしなら嫌だ。イライラするし、面倒だし。時間の無駄だと心から思う。


「もちろんですわ! けれど、そういう手順を踏まなければ、人は仲良くなれないものでしょう?」

「そんなこともないと思いますけど」


 なんだろう? 前提条件がそもそも違っている気がする。
 仲良くなったからこそ、相手の力になりたいと思うものじゃない? この子の場合、無理やり殿下を好きになろうとしているというか――――そういう感じがする。


「とにかく、マチルダ様から殿下に鍛錬を止めるように伝えてください!」

「お断りするわ。わたしには関係ないし。殿下は殿下の好きなようになさったらいいと思うもの」


 これ以上相手にするだけ時間の無駄だ。
 わたしはカトレアから離れるべく、踵を返した。