その日以降、殿下は変わった。
 休み時間は護衛たちとともに学園の周りを走り回り、馬術や剣術に励んでいる。肉体改造に忙しいせいで、どうやら裏庭にも行っていないらしい。


『健全な精神は健全な肉体に宿る』


 とかなんとか口にしているらしく、カトレアに愚痴を零す必要がなくなったのだそうだ。


(まあ、良いことなんだろうけど)


 この国にはヴァージル殿下以外の跡取りがいない。どんなに嫌でも、辛くても、彼はその重責から逃れることはできないんだもの。困難を迎え撃てるだけの知力と体力、それから自信を持っていたほうが良いだろうから。


「納得できませんわ!」


 とそのとき、背後からそんなセリフが聞こえてきた。


(またこの女か……)


 半ばうんざりしながら振り向くと、そこには思い描いた通りの人物――――カトレアがいた。