「気になりません――――というか、二人は思い合っているようですし、さっさと彼女と婚約すれば良いんじゃないかと思っています」


 授業の内容をノートにまとめつつ、わたしは静かに息を吐いた。


「なっ……それは、本当か?」

「ん?」


 さっきの騎士とは違う声。顔を上げたら、そこにはヴァージル殿下がいた。なんでか分からないけど、すごく悲しそうな顔をしている。


「本当です。殿下は殿下の思うがまま――――ご自由になさればいいと思います」


 婚約期間を長引かせるだけ不毛というもの。せっかくの機会だし、わたしはきっぱりと自分の考えを殿下に告げる。


「いや、だけど……君はそれで良いのか? というか、マチルダは僕のなにが気に入らないんだ?」

「はい?」


 態度には出さないように気をつけていたつもりだったけど、どうやらバレていたらしい。


(どうしたものか)


「そんなことはない」と答えるのは簡単だけど、嘘っぽいし(っていうか嘘だし)。知らぬが仏って言葉もあるんだけど、本当にいい機会だから本心を言っておいたほうが良いのかもしれない。わたしは大きく息を吸い込んだ。