「初めて聞いたって人もいると思うので説明します」

言いながら、クラスの人数分刷ったプリントを一番前の席から回してもらうよう、席の列分、配った。

お祭りの概要と、龍踊りについて簡単にまとめた物だ。

「龍踊りは、日本三大祭りの一つとも言われている長崎県のお祭りで行われている、民俗芸能です。元々は中国で雨乞いの儀式として行われていました。龍が追う玉は太陽や月を表していて、龍が玉を飲むことによって空が暗転して雨雲を呼び、雨を降らせてくれるという儀式みたいです。私は、雨が降ることで草木が実り、農地も人々の心も潤う、この儀式をクラスの繁栄に例えて、これをみんなでやりたいって思いました」

「クラスの繁栄だって」

「九条さん、案外アツイねー」

「でも龍踊りなんてどこから引っ張ってきたの?」

「はい。実は私の祖父が長崎県出身で。一度、本当の龍踊りを見に連れていってもらったことがあるんです。物凄い迫力で、その頃の私はまだ小さかったけど、その光景は、はっきりと憶えてます。えっと、龍踊りの映像を見つけたので、一度みんなにも観て欲しいです」

私は視聴覚室から借りてきて、教室のテレビに繋いでいたプレイヤーに、準備していたディスクを挿れた。

これは、読書が趣味の進藤さんが図書館に資料があるはずって誘ってくれて、映像コーナーでたまたま見つけた「日本のお祭り」っていう所にあった物だ。

流れ始めた映像を、龍踊りのところまで早送りした。

独特の音楽と掛け声。
“玉”を追いかけて乱舞する巨大な龍。

教室からも感嘆の声が聞こえる。
今までは興味が無くて、全然知らなかったことでも、目の当たりにすると人の心を動かす力がある。
芸術の凄さを思い知る。