「まつり…?」

後ろの席から真翔がびっくりした声を出す。

振り返って、「だいじょうぶ」って小さい声で答えた。
真翔が頷く。

真翔と交わす「だいじょうぶ」は私にとって呪文の言葉だ。
やわらかい口調。私を信じてくれてるって分かる優しい目。

絶対にだいじょうぶって思えるから私はなんだって出来る。

「実行委員、私にやらせてください」

ちょっと騒がしかった教室がシーンと静かになった。

「えっと…皆さん、どうですか?」

委員長がみんなに問いかける。
クラス中がぽかんとするのも仕方ない。

ちょっと前までオドオドして、秘密をカミングアウトして泣いていた私が急に立候補したんだから。

「あの…驚かせてごめんなさい。まだみんなの意見も聞いてないんですけど、私はこのクラスで応援合戦に参加したいって思ってます。その進行を私にやらせてくれませんか?」

「えー、練習、夏休みもするんでしょー」

「でも私は去年も参加してないしちょっと興味あるかも」

「俺、塾あるしなー」

「部活が…」

「でもお祭りみたいでワクワクする」

みんなが思いを口々に話す。
参加には肯定派と否定派が半々くらい。

「皆さん、先日、私はみんなと打ち解けたいって話をしました。正直今はまだ友達だって呼べる人は居ないのかもしれません。でも前に比べて挨拶を交わせる人達も増えて本当に嬉しくて。それでもっとみんなと打ち解ける為に、私がクラスの為に出来ることってなんだろうって考えた時に、思いついたことがコレだったんです。自分の事情にクラスを巻き込むなって感じる人も居ると思う…。それでも、そんな人も最後はやって良かったって、素敵な思い出に出来るように頑張るので協力してくれませんか!」

「いいんじゃない」

ハッとして見た声の方向。

武田さんだ。

「武田さん…?」

「いいじゃん、やらせれば。あー、応援合戦に参加ってことでいいなら、だけど。そんで参加するんならさ、実行委員なんてメンドーなこと、どーせ誰もやりたくないんでしょ?だったらわざわざ自分でやるっつってんだからやらせれば?」

「俺は賛成ー!」

「俺も」

「私も」

「確かに、参加はしたいけど委員は面倒だよね」

「んー、準備とか毎回参加じゃなきゃいいかなー」