死にたくなった時。

武田さんははっきりとそう言った。

死にたくなったことが武田さんにもあったのだろうか。
その時に過去にしたことを思い出して、救われる権利なんて無いって後悔してきたのかな。

「あの…」

「何よっ…」

女子達の前に立った。
俯いてちゃだめだ。

この子達の“後悔”を救ってあげる筋合いなんて無いのかもしれない。
どれだけ蔑まされて酷い言葉をぶつけられたかを思えば、この子達がどうなったって知らないって言えばいいのかも知れない。

でも、行き場のない苦しみを、痛みを、消せない後悔を、抜け出せない地獄を私は知っているから。
知ってるのに、それがどんな痛みを伴うか解ってるのに、誰かがそうなってもいいなんて思えなかった。

「あのね、私、憎み合っても誰も幸せになんてならないって思うよ」

「 何…急に平和主義…」

「あなた達を許したい。あなた達が私に感じてる憎しみも許されたい。消せない後悔を背負って生きていくことの苦しさを、知って欲しくない。だから、私が強くなるから。いつか…気が向いたら友達になって欲しいな」

「は?友達…」

「武田さん!真翔!ありがとう、助けてくれて。嬉しかった。すごくすごく…本当に嬉しかった。ありがとう」

二人の返事を待たないまま私は視聴覚室を飛び出した。

「ちょっと…!」

「まつり!?」

後ろから二人が私を呼ぶ声がする。
でも振り返らないで私は走り続けた。

一時間目はとっくに始まっていて、通り過ぎた音楽室から合唱と、ピアノの音が聴こえた。

階段を下って、渡り廊下からいつもの教室がある校舎へ。
走り続けて、自分の教室のドアを思いっきり開けた。

一時間目、国語。
国語の担当は担任だ。

「九条さん!?あなたどこに…!?」

「まつり!!!」

私を追って走ってきた真翔、武田さん達がすぐに教室に飛び込んできた。

「ちょっとあなた達…!」

呼吸が荒い。
走り続けたことと、緊張の動悸だ。

気持ちが勢いを失ったら言えなくなってしまう。
決心が変わらないうちに。

私が変わる為に。
みんなの目に怯えて生きていくなんて嫌だ。

私の存在が誰かの人生に後悔を残してしまうかもしれないなら、私が変えるんだ。

認めてもらえなくても。
これ以上、私が私を嫌いにならないでいいように。