「わざとってなんでそう思うの」

「俺に飛び降りさせる為」

「そんなわけないでしょ!!!飛び降りればいいなんて思ってるわけない!ちゃんと話そうよ…きっとまだだいじょうぶだよ。私のことだって真翔は見ててくれたから分かるでしょ?変えられないことなんて無い。すれ違ったまま終わってしまうなんて悲しいよ。私も一緒に…」

「変わんないよ」

「真翔…」

「だめだった。父さんに俺の声は届かない。俺は父さんや親族のプライドを保つ為だけの人形だったから。一度壊れたら直らない。直ったふりしてた。俺はだいじょうぶだって。俺に見切りをつけたんならこのまま高校を卒業して家を出て一人で生きていこうって。まつりが一緒に居てくれるならだいじょうぶだって。でも直ってなんかなかった。ずっと俺は自分を恨んでた。自分を救いたいなら、あの時、俺がすべきなのは母さんを救うことだった。母さんだって父さんに捨てられるのが怖かったんだ。本当は不倫にだってずっと気付いてたのかもしれない。俺を盾にしてでも母さんは父さんに縋らなきゃ生きていけなかったのかもしれない。そのマインドコントロールから解放してあげなきゃいけなかったのに。もう謝れない」

真翔は手の中のクマのチャームをギュッと握り締めた。
開いた手の平には、伸びた爪が痕を作っている。

「母さんのなんだ。このチャーム。形見。俺が殺したくせに」

「違うよ。真翔は確かに間違っちゃったかもしれない。そんなことすべきじゃなかった。でも真翔が苦しんでたことも本当のことだよ。真翔は守ってくれるはずの親に守られなくて心を殺され続けたのに、なんで真翔だけが悪いの…」

「まつりは優しいから。そんな風に言ってくれるけど、きっかけを作ったのは俺だよ」

「真翔にそういう気持ちを植え付けたのは大人達じゃない!」

「泣かないで。まつり。もう疲れたんだ。ずっと自分の罪に後ろめたくなって、繰り返し母さんの夢を見る。楽しかった思い出なんて一個も無い。自分の感情で誰かを傷付けたって何も救われない。誰も幸せになんてならない。だからもう終わりにしたい」

「死が救いになるなんて間違ってる」

「もう悪夢にはうなされない」

「じゃあ真翔は私も死ねばよかったって思うの?」

「そんなこと…」

目を逸らす真翔の頬に触れた。
真翔がこっちを見たけど、その瞳に私が映っているとは思えなかった。