「地獄に堕としてやろうって思った。だから父さんとマキさんの不倫を暴露した」

「マキさん…?不倫?」

「その時のお手伝いさん。二人は不倫関係だったんだ。だからマキさんの父さんに対する態度も納得した。暴露するだけじゃ信じてなんてもらえないからネットで買ったICレコーダー仕込んだりしてさ。二人の後をつけてホテルに入っていく写真も撮ったりした。探偵になったみたいで快感だった。母さんにはすぐにバラしたし、写真を父さんのクリニックにバラまくって脅しもした。別に個人のクリニックだからバラまかれようが痛くも痒くも無かっただろうけどね」

「お母さんは…それで…?」

「それだけじゃない。ずっと従ってきた主人の裏切りに絶望したところで、俺は毎日毎日…母さんに言い続けた…。情けないねって。息子を盾にしてまで自分を守ったくせに、可哀想な女だって。何の為にこの家に居るの?何の為に生きてるの?もしかして俺が勘違いしてただけでマキさんが妻だったのって…俺は毎日母さんを罵り続けた…」

「真翔…真翔もういいよ。もうやめて…」

「母さんの死は事故として片付けられたよ。マキさんもすぐに辞めていった。この高校に入ってからは父さんはもう何も言わなかった。今は未成年だからあの家に居させてもらってるだけで、本当はもう居場所は無い。当然だよな。俺が生きてていい理由はどこにも無い」

「そんなバカなこと言わないで!」

「もういいんだよ、まつり。まつりにだけは知られたくなかった」

「真翔のせいじゃない。真翔のほうがずっとずっと傷付いてた。苦しんでた。なんで真翔の苦しさは無視されて当たり前なの…」

「俺のせいじゃないわけない。だって死んじゃってるんだから。もう…」

少し前に私が感じた地獄。

許してあげられない地獄。
許されない地獄。

どれだけ言葉を放っても、もう真翔のお母さんに真翔の声は届かない。