アパートに帰ってきても真翔のお父さんの言葉がずっと頭の中を駆け巡る。

真翔は人殺し。

そんなはずは無い。

本当に殺したわけじゃない。
きっと理由があるはずなのに、実の父親が息子に向かってあんな風に言うなんて。

それに真翔の態度だっておかしかった。
私の前で見せる真翔とは明らかに違う態度や表情は、まるで別人だった。

食欲なんか湧かなくて、夕方過ぎにはさっさとお風呂に入って、ベッドに潜った。

ママは相変わらず帰って来ないし連絡も無い。
どこで何をしているかも分からない。

いつの間にか眠っていた私は、スマホの振動音で目が覚めた。

暗い中でスマホの画面だけが煌々と光を放っている。
カーテンを開けなくてもすっかり夜になっているって分かった。

スマホの画面には“真翔”の文字。

一瞬ためらったけど、私は電話に出た。

「もしもし」

「もしもし、まつり?ごめん、こんな時間に電話して」

「今、何時?」

「え?十時だけど」

帰ってきてからのことを考えると、私は五時間くらい眠ってしまっていたらしい。

バイバイした時の真翔の様子から考えたら、真翔はきっと一人で悩んでいただろうに。

最低だ…。

「ごめんね…寝ちゃってたみたい…ほんとごめん…」

「全然だいじょうぶ。今、話せる?」

「うん」

「ほんとは会って話したいんだけどさ」

「うん」

「まつりの顔を見たら多分、話せなくなるから…」

「いいよ。ちゃんと聞いてる」

「ありがとう。まずは、本当にごめん。グラス、怖かっただろ…」

「もうだいじょうぶだよ…。真翔はお父さんにやめて欲しかったんだよね。でもやめてくれなかったから、そうするしか無かったんだよね」

「でも…まつりの前でするべきじゃなかった…ごめんなさい」

「うん。分かった。もうだいじょうぶだから」

「ありがとう。…あのさ、父さんが言ったこと、聞こえてただろ?」

ドクンッて心臓が鳴った。

そのことを話す為に電話をかけてきたって理解してたけど、心の準備は出来てない。

でもちゃんと聞かなきゃ。