「まつり…立てる?ちょっと外、出ようか」

真翔の声がすごく遠くに聞こえる。
こんなに近くに居るのに。

「まつり…」

引っ張り上げられるようにして立ち上がった。

「気をつけて」

螺旋階段を下りる時も真翔がそっと支えてくれる。
まるで介護されてる気分だ。

「まつりちゃん、もう帰るの?気が向いたらまた遊びにおいで。良かったら夕飯でも一緒に食べよう」

お父さんの顔は見れなかった。
真翔も何も言わなかった。

顔を見ないまま会釈をして、真翔の家を出た。

真翔が持ってくれていた鞄を受け取った。

「ここでいいよ…一人で帰れる…」

「送る」

「だいじょうぶ」

それ以上、真翔は何も言わなかった。
握っていた私の手をスッと離した。

急に、私の中の何かが空っぽになった気がした。

「また電話する…するから…」

真翔のすがるような声に胸がズキッてした。

「分かった。じゃあね」

歩き出した私は振り返らなかった。
振り返ればきっと真翔はまだ待ってるって分かってた。

なのに私は振り返らなかった。

真翔の話を聞かなかった。