「もういいから出ていけよ」

「おいおい。彼女の前で感じ悪いぞ」

彼女。
親に当たり前のように言われるとちょっと気まずい。

「もう用は無いだろ」

「お前は何を心配してるんだ?」

お父さんがニヤッと笑う。
親が子供の前で見せるような表情じゃない感じがする。

なんで真翔はこんなにお父さんを拒絶するんだろう。

「心配って何が?」

「はは。その様子じゃこの子は知らないんだな。大事な子ならちゃんと話さなきゃなぁ。言いにくいなら父さんが…」

ガシャンッ!!!

一瞬で音が鳴って、一瞬でお父さんの足元にバラバラに砕けたガラスが散らばった。
床はアイスティーでびしょ濡れになった。

グラスが壁に当たったのか、壁紙からもアイスティーが滴っている。

「え…」

「まつりちゃん、大丈夫かい?見ただろ、真翔はこういう気性の荒さがある。真翔と付き合っていくなら気をつけて…まつりちゃん?」

ズルズルと力が抜けて、うずくまって頭を抱えてガタガタと震え出した私の肩にお父さんが触れた。

「まつりちゃん、大丈夫?」

フラッシュバック。

ママ…

ママ…?

私に向かって飛んでくるいくつもの暴言と、ぶつけることを目的に投げられる物達。

散らかった部屋。

サンドバックにされ続ける私の体。

いやだ…

嫌だ嫌だ嫌だ…

「ぁ…ああ…」

「まつ…り…まつり!!!」

私の傍に飛んできた真翔がお父さんを払いのけて、私に覆い被さる。

「ごめん、まつり…ごめん…だいじょうぶだから…ごめん…」

お父さんが私に聞こえるように近付いたのが分かった。

うずくまってる私には、中腰になったお父さんの膝くらいしか見えないけれど、
その声だけがはっきりと脳内にまで響いてくるようだった。

「気をつけなさい。真翔は人殺しなんだ」

「消えろ!!!」

皮肉っぽい笑い声と一緒に、お父さんは部屋を出ていった。

人殺し…

人殺しって何?

人を殺した?真翔が?

人殺し?