「後悔してた」

「後悔?」

「私の一言で九条さんに嫌な態度を取ってもいいって暗黙の了解がクラスに広がって、九条さんはストレスの捌け口になった」

「…」

「そんなつもりじゃなかった。真翔のことを牽制したいだけだった」

「武田さんにとっては…そう、だよね」

「そう。“そんなつもりはなかった”から何?こんなことになるとは思ってなかった?小さい子どもじゃないのに、容易に想像はつくくせに子どものふりして分かんないふりをして無邪気に牙を剥く。自分の顔もあの頃に見てた、あの嫌な奴らと同じだった。ずっと謝りたかった」

武田さんの声が揺れた。
顔は見れなかった。
もしも武田さんが泣いていたら、なんて言えばいいか分からなかった。

「遠足の話をしてる時も、遠足の日も、本当はシートに座ればいいじゃんって言いに行った。でも九条さんを目の前にしたら、真翔と一緒に居る姿を見たら酷い言葉しか口から出てこない…」

「お弁当のこと…武田さん言ったよね。親に愛されてないんじゃないって。子どもの為ならどんなに大変でも協力してくれるって。他の家庭ではそうしたくても出来ない事情だってあると思うけど、私にとっては武田さんが言ったことが正解だったから怖かった。自分が愛されてないってことを突き付けられて、怖かった」

「うん…本当にごめん…」

「でも、武田さんが親に愛されてて良かったって思うよ」

「え…?」

「武田さんが生きていける場所があったから、今もこうして私と話してくれてる」

「…最初に、親にも言えなかった地獄から救ってくれたのは真翔だった」

武田さんが自分の右肩をギュッと掴んだ。