中腰になって動かない私を、ママは構わず蹴った。

玄関に転がる私を見て、渇いた笑い声を上げる。

どうして私はママに反撃出来ないんだろう。
おんなじ女性だし、力に大差は無いはずなのに。
その気になれば私のほうが強いかもしれないのに。

どうしたって恐ろしくて、何も出来なくなる。

みんなの前でちょっとずつ変われたみたいには、ママの前では振る舞えない。

心のどこかで、どうなったっていいって思えないからだ。

本当にママに見捨てられたらどうなってしまうんだろう。
本当は一番に愛してくれるはずの存在の人に、本当に嫌われてしまったら。

私の命は穴の開いた靴下みたいに簡単に捨てられる物なんだって想いを、一生植え付けられるかもしれない。

どれだけお金を貯めて備えたって、心の救いにはならない。

「早くしな」

私は動けない。
あれを渡してしまえばママは満足して笑顔で立ち去るだろうけど、
この後の保証は?
私は当面の生活をどうすればいい?

「早くしろって!!!もういいわ、どこ!?自分で取ってくるから!」

「…」

「まつり!!!」

うずくまって動かない私を蹴って横に転がして、胸ぐらを掴まれる。

「まつり!!!」

「かばんッ…」

「はぁ!?」

「鞄…学校の…内ポケットに…」

怖かった。
頭で考えるより先に口が勝手に動いた。

乱暴に、私の頭を床に捨てるみたいに手を離されて、後頭部も痛かった。

ママがパンプスを脱いで家に上がって、私の部屋でゴソゴソと鞄を漁る音が聞こえる。

「ぃゃ…お願い…ママ…」

さっきのママとは別人みたいな表情で戻ってきたママは、鼻歌を歌いながらパンプスを履き直した。

「思ってたより少ないけど十六歳にしては上出来じゃんー」

「ママ…」

体を起こして、ママのワンピースの裾を掴みかけた時だった。

ドンドンドンッて玄関のドアを激しく叩く音。

私達の返事を待たないで、ドアノブが回されて、ドアが開いた。

「まつり!?」

「ま…こと…?」

「ちょっとあんた何よ!」