「今は血は出てないし、実際に見せようとは思わないから安心して。…私が今まで流してきた血液は、熱くてさ…。実際にそんな温度があったわけじゃないよ。でもね、切るたびに感情は落ち着くどころか激しく揺さぶられて、頭が変になりそうだった。なんで私ばっかり、なんで私ばっかりって。明日が来ることをいつも恨んでた。血液が流れてなくても、私はあの紅を容易に思い出せる。死にたくなんかない。私だって生きたいのに、心が生きれない、私の叫びの代わりに流れた紅を」

「生の代わりってこと?」

「多分」

「いい?」

千葉さんが私に訊いて、腕の傷痕をそっと撫でた。
優しい触り方だった。

「ごめん」

「千葉さん?」

「あんたの心を殺して」

「…」

「ちゃんと謝れてなくてごめん。あれは…ただの水なんかじゃなかったね。あの水で私は確実に九条さんを殺した。九条さんの心を」

「千葉さん…ありがとう」

千葉さんが首を横に振る。
握っていた私の腕を離して、今度は手の平を掴んで、千葉さんの胸の辺りに置かれた。