「迷ってるんだ」

「どうして?千葉さんが作ってくれた胴体の緑、すごくイメージ通りだった。だから千葉さんに一任するよ」

千葉さんは目の上をちょっと掻いて、考える素振りを見せた。

「んー…映像で観た通り、そのまま再現してもいいけど、どうしてもしっくりこない。激しい紅…燃え盛るような。そんな紅にしたい。でも資料通りの紅を再現することは出来ても、そうじゃない…」

激しく、燃え盛るような紅。
そんな“紅”を、私は知っている。

「千葉さん」

「ん?」

「ちょっと外、出ない?」

千葉さんと一緒に体育館の外に出た。
風が生ぬるくて、気持ちいいとは言えない。

「千葉さん、イメージするのって、得意?」

「そりゃ…絵描いてるからね。ちょっとは…」

「じゃあ…ごめんね。嫌かもしれないけど、見て」

私は千葉さんの目の前に自分の左腕を晒した。

千葉さんはびっくりして、一瞬目を逸らしたけれど、ちょっと溜息をついて、私を見た。

「どういうこと?」

「燃え盛るような激しい紅を私は知ってる」

「あんたの血、ってこと?」

千葉さんが私の腕を掴む。
あの視聴覚室で掴まれた時と同じ、千葉さんの中の激しい感情が、腕を掴む手から伝わってくる。

そう言えば千葉さんはいつからこんな口調で喋るようになったんだろう。
間延びする特徴的な口調が千葉さんから消えていることに、今になって気が付いた。

武田さんの変化が彼女のことも変えているのかもしれない。
どこか演技をするみたいなあの喋り方の千葉さんが私は苦手だった。

気付けば普通に会話が出来ているのも彼女の変化のおかげかもしれない。