八月、三週目の泊まり込みの日。

「九条さん、ちょっといい?」

夜の九時を回ったくらいだった。
ほとんどの人が休憩に入っていて、一旦体育館の冷房を消して、扉や窓を開けて換気をしていた。

夜なのに蝉の声がする。
蝉は本来、夜は鳴かない。

蝉が昼夜を判断する基準は気温だ。
蝉の合唱が一番盛んになるのは二十五度くらいの気温の時で、昔は熱帯夜なんて珍しかったんだと思う。

異常気象だ。
蝉が昼夜を判断出来なくなってきてるんだ。

「千葉さん?」

担任が買ってきてくれたアイスをみんな食べていて、私もそろそろ休憩しようと思って、
鱗を描いていた厚紙を片付けている時だった。

「ちょっといい?」

「うん」

千葉さんに連れられて、龍が置いてある所に向かった。
もう半分以上は完成していて、パーツごとに貼り付けていた鱗の継ぎ目に違和感が無いように、尻尾と三つの胴体は既に繋ぎ合わせていた。

ここにもう少し鱗を豊かにして、最後に頭を繋げれば龍は完成だ。

演目チームは振り付けだけを高嶋さん達の指導の元、練習を続けていた。

「どうしたの?」

「龍の眼の色」

「眼?」

「しっくりこないの」

龍の眼。確かに今はまだ色が入っていなくて伽藍堂だった。
墨入れをしていないダルマみたいに。