髪を乾かし浴衣に着替えて浴場をあとにすると、男子部屋を訪ねた。
「お風呂あがったよー」
ふたりに声をかける美輝は、やっぱり普段と変わらない。
変わったところと言えば、今は髪をおろしていることくらいだ。
夕食は別室に用意してもらっているらしく、わたし達は結弦のあとについて部屋を移動した。
中に入ると高校生のわたし達ではとてもお目にかかれない豪華な料理が並べられていて、思わず「うわあ」と感嘆の声が漏れた。
「すごーい! おいしそう!」
「こんなメシ食ったことねえよ!」
美輝と怜は感情表現が上手だ。食べる前から既にご満悦の笑顔を見せている。
それに比べてわたしはこういうときに喜びを口にするのがちょっと苦手。
なんだか照れが入ってしまって、つい余計なことを言ってしまう。それが無粋だという自覚もある。
「結弦、いいの? わたし達お金も払ってないのに」
やっぱりこんな言葉が出てきてしまう。
「親戚なんだから、そんなに気を遣わなくても大丈夫だよ」
なんだかわたしにはまだ早いような、場違いな気がして体を強張らせていると、部屋の入口から見知らぬ女性が姿を見せた。
「実は今日、子どもさんが熱を出したからって予約のキャンセルがあってね。それで食材が余っちゃったのよ。残り物みたいでごめんなさいね」
ふふっと笑って教えてくれたお姉さんは、きれいな着物をかっこよく着こなし、流れるような動作で持ってきたお刺身と飲み物を次々と並べていく。
「千佳さん! 久しぶりだね!」
配膳に来たお姉さんを見て、結弦が嬉しそうな顔をする。
「結弦が来るって聞いたから、今日は特別ね。つい出しゃばっちゃった」
普段は配膳とかしないのだろうか?
そういえば着物も他の仲居さんより豪華な気がする。