取引先でひと仕事を終えて、会社に戻ると上司の怒声。
どうしてこんなに怒っていられるのだろう? 今日もいつも通りだ。
「おい神谷ぁ、お前何回言ったらできるんだよ! こんなの通るわけねえだろ? 次こそは頑張りますって、これじゃ嘘ばっかじゃねえかよ!」
「申し訳ありません。やり直します」
「いつできんだ?」
「早急にやります」
「早急って?」
「今日中に直します」
「今日のいつ? 俺にそれまで待ってろって言うのかよ! あぁっ!?」
「……」
日課のように声を荒げる課長のパワハラになんとか耐えながら、とにかくお金を稼ぐため、食べるため、ひとりで生きるために心を閉ざして毎日を過ごした。
たとえ色褪せた日常にも、唯一彩を添えてくれる存在があるから。
高校生の頃からずっと付き合っている結弦がいてくれるから。
だからわたしは挫けずにいられるんだ。
残業も多くて、土曜日は溜まった家事をやっつけなければならないから毎日は無理だけど、日曜日は結弦とふたりでゆっくりと過ごせる時間が、わたしにとって唯一の安らぎだ。
それまでは心と感情をうまく切り離して、灰色の日々を淡々と過ごしている。