「ここから一時間か、俺メシ食って眠くなってきた」


 いつも元気な怜が、今は随分眠そうだ。


「着いたらすぐに温泉に入って夕食にしよう。みんな今日は疲れただろう」

「ありがと結弦。乗り換えばっかで実はへとへとだったんだよね」


 美輝の言うとおり、移動ってそれだけで疲れるものなんだって身に染みてわかった。

 電車に乗り込むと、運よくボックス席が空いていた。

 荷物を棚に上げ四人で腰を下ろしたが、みんな疲れが溜まってきたのか、あまり会話は弾まない。


 陸橋を越えてトンネルをくぐると、田園風景が続いた。

 その景色をゆっくりと後ろに流しながら、電車は悠々と走っていく。

 さっきのホームはなんとなく見覚えがあった気がしたけれど、車窓から見えている景色にはまったく見覚えがなかった。

 わたしの既視感はどうやら終わりを迎えたようだ。


 あれは一体なんだったんだろう……?


 考えているうちに眠くなってしまい、そのまま美輝にもたれかかるようにしてまぶたを閉じた。

 高校生のわたしは、まだまだ無垢で柔軟だ。

 ひと眠りを終え、最終目的地である駅に着いた頃には、奇妙な感覚のこともすっかり気にならなくなっていた。