「そろそろ戻ろうか」という結弦の声でバスに戻り、美輝と他愛ないお喋りをしていると、一台のパトカーが到着した。
中からふたりの警察官が降りてきて、ひとりはバスの運転手さんと乗用車の男性から事情を聞いている。一方の警察官は状況を確認しに車内へと入ってきた。
「ご気分の悪いかたはいませんか?」
運転手さんと同じ問いかけをするが、全員この状況にも慣れてきたのか、今回も手を挙げる人はいなかった。
乗客の無事を確認すると、ふたりの警察官はまたパトカーに乗り込み、元来た道を走り去っていった。そのあとを追うように、相手側の乗用車も走り去っていく。
「事故したのに、そのまま運転して帰っちゃって大丈夫なのかな、あの人」
美輝が窓の外を眺めながらぼそっと口にする。
それもそうだけど、今のこの状況も、わたしは内心気になっていた。
これからどうなるのだろう?
事故が起こらなかった先のことなんて、なにもわからない。
わからなくて当然かもしれないけれど、なんだか落ち着かない。
なかなか進展しない状況に軽い不安を覚えると、運転手さんが戻ってきた。
「皆様お待たせしました。只今、代わりのバスがこちらへ向かっており、あと一時間ほどで到着致します。ご不便をおかけして申しわけありませんが、今しばらくお待ちください」
時刻は十二時過ぎ。十三時頃にはわたしたちはリスタートできるということだ。
自分の未来がようやく定まったようで、ほんの少し安堵する。
「俺、もう一度じいさんに連絡してくるよ」
そう言い残すと、結弦はまたバスを降りていった。