運転手さんは後部座席に移動しながら、乗客にひとりずつ声を掛けている。
「今から相手方の様子を見てきます。バスの中は安全ですので、みなさんはお席についたままでお願い致します。すぐに戻りますが、ご気分の優れないかたは申し出てください」
全員の無事を確認してそう告げると、運転手さんは急いで外に出て相手ドライバーのもとへ向かった。
わたしの座席からも相手の姿は見えていたが、どうやら怪我はないらしい。
やはり、夢を見ていたのだろうか?
ダムに転落するというのは今回の事故の予知夢であり、夢の中では大袈裟になっていたのだろうか?
しかし、わたしはそのあとのことまでよく覚えている。
美輝と怜が亡くなって、結弦は意識不明の重体になってしまった。
そして、わたしはそれから七年の歳月をひとりで生きた。
「これ、どうなるんだろうね?」
隣で美輝がチョコ菓子をぽりぽりと咀嚼しながら呟く。同時に運転手さんが車内へと戻ってきて、状況を説明し始めた。
「ご迷惑をおかけして大変申しわけありません。相手方もお怪我はありませんでした。先ほど本社に連絡をして、ここから一番近くの車庫から代車をまわす手配を致しました。皆様には新しいバスが到着次第そちらに乗り換えていただき、目的地へとお送り致します。今のところご気分の優れないかたはおられませんか?」
少し不安そうな顔をする人もいたが、誰も声は挙げなかった。頑張ってくれている運転手さんに、今なにか言える人なんていないのだろうけれど。