降りる人はいなかった。
わたしだけを停留所に置き去りにして、バスは再び走り去っていく。
聞こえてくるのは鳥のさえずりと虫の鳴き声。
それに木々の葉擦れの音。
他にはなにもない。
冷たい風が木々を揺らすと、淡い木洩れ陽もゆらゆらと揺れる。
流れのないダム湖の湖面は、しんと静まり返っていた。
静かだ。今この瞬間、ここにはわたししかいない。
少し歩くと、バスの運転手さんが言っていたとおり路肩があり、その奥に石の階段が見えた。おそらくあの階段を上ったところに慰霊碑が建っているのだろう。
長かった……。七年も経ってしまった……。
石段を一歩ずつ踏みしめて上っていくと、ついにその場所へ辿り着いた。