駅前に戻ってくると、ロータリーにバスが一台停まっていた。おそらくあれが七色ダム方面へと向かうバスだろう。

 乗り込む前に、外で体をほぐしている運転手さんに行き先を確認する。


「すみません。七色ダムにある慰霊碑へ行きたいのですが、どこで降りたらいいですか?」

「あぁ、慰霊碑なら【七色】という停留所で降りるといいよ。そこから七色狭沿いに三百メートルほど歩くと、左手に車を二、三台停められるスペースがあってね。その奥の階段を上ると展望台になっていて、そこに慰霊碑が建っているよ。帰りのバスは十八時十分が最終だから、乗り遅れないよう気をつけてね」

「ありがとうございます」


 優しそうな年配の運転手さんは丁寧に帰り方まで説明してくれたが、わたしはたどり着いた後のことまでは考えていなかった。

 バスに乗り込み一番後ろの座席に腰をかける。

 数分のうちにバスに乗ってきたのはわたしを含めて五人。

 老齢の夫婦が一組と孫らしき子どもがひとり。それに買い物袋を持った主婦っぽい女性。


 十三時半になり、ゆっくりと動きだしたバスは車も殆ど走っていない道を進み始めた。

 あと一時間もすれば、わたしは七色ダムの慰霊碑へと辿り着くのだろう。

 バスは市街地を離れ、徐々に山道へと入っていく。

 僅か五分ほどで窓の外は森一色の風景に変化した。

 たった半日の道程だけれど、わたしにとっては長い旅だったような気がする。


 この先に美輝と怜が待っている。

 七年も待たせたふたりは、わたしをどう迎えてくれるのだろう。

 笑ってくれるだろうか?

 それとも、怒るだろうか?